旧市立図書館の閉館時間は午後八時。だが司書見習いの朝倉千歳が残業で書庫整理をしていると、奥の壁に見知らぬ扉があることに気づいた。他の職員に聞いても、誰もその扉の存在を知らない。
鍵はかかっていなかった。扉の向こうには、埃を被った小さな部屋。壁一面の棚に、古い封筒がぎっしりと並んでいる。差出人はあるが、宛先が消えている手紙。日付が未来の手紙。宛先人が存在しない手紙。「届かなかった手紙」たちの書架だった。
千歳が一通を手に取った瞬間、視界が白く染まった。気づくと彼女は、昭和三十年の東京に立っていた。手紙の書き手──ある青年の記憶の中に入り込んでしまったのだ。